試着室で鏡を見て、「うん、入るし大丈夫そう」。そう思って買って帰った服を、家でもう一度着てみたら、なんだかしっくりこない。どこがおかしいのか自分でも説明できないまま、その服はだんだんクローゼットの奥へ。
そんな経験、ありませんか。
じつはこれ、試着をしたかどうか、だけの話ではありません。試着室で「どこを見るか」を知らないまま鏡の前に立つと、きれいに着られていない状態のまま「そんなものかな」と見過ごしてしまうんです。
この記事では、アパレルの接客を約10年してきた私が、試着室の前から実際に見ていたことをお話しします。お客様が気づいていなかった「なんか変」の正体と、そのとき私が何をお伝えしていたか。そのままの形で残しておきたい話です。
📖 この記事でわかること
✅ 「試着は面倒」が、じつは逆かもしれない理由
✅ 試着をしても気づけないことが起きる、3つの場面
✅ 「なんか変」の正体と、そのときの解決のしかた
✅ 分かったうえでサイズを選ぶのは「好み」でいい、という話
✅ 基準を持つと、次の服の探し方そのものが変わること
私はアパレルの販売員として約10年、たくさんのお客様の服選びをお手伝いしてきました。今は事務の仕事をしていて、自分の通勤服には毎朝ふつうに迷っています。それでも「あのとき伝えたかったこと」がずっと残っていて、このブログを始めました。この記事は、その一番はじめに書きたかった話です。
「試着って面倒くさい」…それ、もしかしたら逆かもしれません
友人や家族と話していても、試着をせずに服を買おうとする人は本当に多いなと感じます。理由を聞くと、返ってくる言葉はだいたい同じです。「面倒くさいから」。
その感覚は、数字にもはっきり出ています。株式会社fitomが2019年10月に全国の20〜30代女性500名に行った調査では、店頭で試着することに抵抗を感じる人が63.0%、店員に声をかけられることに抵抗を感じる人は83.4%にのぼりました。カーテンを開けた瞬間の「いかがですか〜」が苦手、という声もよく聞きます。
ただ、同じ調査にはもうひとつの数字があります。試着をせずに買った人のうち、約7割(68.6%)が「失敗した・後悔した」経験があると答えているのです。(出典:株式会社fitom「イマドキ女性たちのお買い物の本音調査」/PR TIMES・2019年12月)
「見ているだけの時間」のほうが、じつは長い
面倒だと感じると、試着の時間を削って、買うか買わないかを決めようとしますよね。ハンガーにかけたまま体に当てて、鏡の前で角度を変えて、少し離れて見て、また戻って。
でも、そうしているあいだ、頭の中ではずっと同じことをぐるぐる考えています。「いいのかな、どうかな」。いいかどうかが分からないまま見ているだけで悩んで、結局そこで時間が過ぎていく。お店で何度も見てきた光景です。
いっぽうで、着てしまえば、ひと目で決まることが本当によくあります。
👗 着てみると、その場で分かること
・サイズが小さければ、その時点で候補から外れる
・「こういうデザインのはず」と頭で思っていた形と、実物が大きく違った
・実際に着ると色の面積や生地感の見え方がはっきりして、しっくりこないのが自分でも分かる
どれも試着をすると、ひと目で答えが出るものばかりです。
試着は「選ぶため」より「外すため」に効く
ここが、私がお伝えしたいことのひとつです。
試着というと「似合う1着を見つけるためのもの」と思われがちですが、実際には逆の使い方をオススメします。合わないものを、その場でスパッと外せる。候補が減れば、迷う対象そのものが減ります。
つまり試着は、時間を取られる作業ではなくて、時短のための手段なんです。想像の中だけでお買い物をするより、ずっと失敗が減らせます。
✍️ いちとより
「試着したほうがいいですよ」と精神論で言いたいのではないんです。せっかくお店まで来て、実物を目の前にしているんですから。買って帰って、満足した気分で着てみて、そこでがっかりする。そのがっかりを、試着をすれば先に回避できる。結構いい効果があると思いませんか?
でも、もっともったいないのは「試着しても気づけない」こと
ここからが、私が本当に書きたかった話です。
試着をする人でも、多くの場合見ているのは「入るかどうか」だけなんです。そのサイズ・その色が、自分にとってベストかどうかまで確かめている人は、正直ほとんどいませんでした。
気にしていない、もしくは、見てもそれが良いのか悪いのか分からない。そういう場面を、お客様の後ろでたくさん見てきました。代表的な3つを挙げます。
1. スカートのウエストが大きいのに、気づかない
試着して鏡の前まで来て、ちゃんとご自分の姿を見ていらっしゃる。それでも、明らかにウエストが大きいことに気づけないのです。
理由ははっきりしています。そのスカートの本当のシルエットを知らないから、「スカートってこんなものだよね」と思ってしまうから。比べる対象がなければ、大きいことは大きいと分からないんです。
2. 背中の横ジワが、見えていない
トップスを着て、鏡に向かって正面を向く。ここまでは誰でもします。でも、正面からしか見ないので、背中に出ている横ジワにまったく気づいていない方がいらっしゃいます。
背中の横ジワは、その服が体に対して少し足りていないサインです。自分では見えない場所なのに、まわりからは一日じゅう見えている場所でもあります。
3. 「いつもMサイズだから」で、肩が合っていない
「私はいつもMだから」と決めてかかって、Mだけを持って試着室に入る方も多くいらっしゃいました。着てみると肩の位置が合っていなくて、袖も長い。全体としてだらしなく見えてしまう。
そして本人は、なぜ変に見えるのかが分からない。「なんかしっくりこないんですよね」で終わってしまうのです。
📌 「いつものサイズ」は、目安にしかならない
同じMサイズでも、引っかかる場所は体型によって一人ひとり違います。サイズ表記ってなかなか疑うことの少ない部分ですが、デザイン、ブランド、生地など他の要素も関わってきます。だから「いつものサイズ」は目安にはなっても、毎回の正解にはならないんです。
「なんか変」の正体は、たいてい説明がつきます
ここが、店員側から見ていてとてももどかしかったところです。
お客様は「なんでか知らないけど変だった」で終わってしまう。でもその原因は、外から見ている側からすると、はっきり分かる場合が結構あるんです。
さきほどの3つの場面で、私が実際に何をお伝えしていたかを書きます。
スカートが大きいとき → 「履く位置」を変えてみる
まず、もう少し上の位置で履くとスッキリ見えますよとお伝えしていました。ウエストの位置がひとつ上がるだけで、脚の見える範囲が変わって、全体のバランスが整うからです。
そのうえで、ワンサイズ下も試してみませんかとお持ちしました。比べてみて初めて、「さっきのは大きかったんだ」と分かるからです。大きいと言葉で言うより着比べていただくと、見て納得できますよね。
背中の横ジワ → 隠して、気に入った部分を主役にする
このときのお客様は、そのトップスのデザインをとても気に入っていらっしゃいました。だから「背中にシワが出ているので、やめたほうがいいですよ」とは言いませんでした。
お伝えしたのは、カーディガンを羽織って背中を隠しつつ、気に入っている胸元のデザインを楽しむという着方です。気になる場所は隠せて、好きな場所は見える。それなら、その服のいいところがそのまま残ります。
肩が合わず袖が長い → 袖をまくれば、だらしなさは消える
このケースは少し悩ましくて、ひとつ下のサイズにすると今度は胴まわりが合わなくなる方でした。上を選んでも下を選んでも、どこかが余るか、どこかが窮屈になる。
そこでお伝えしたのが、袖をまくること。だらしなく見えていた原因は袖の長さだけだったので、そこを解消すれば全体の印象が変わります。胴まわりのゆとりはそのまま活かせます。
💡 3つに共通していること
どれも「その服は諦めましょう」という提案ではありません。
・スカート → 履く位置を上げる/サイズを比べる
・背中のシワ → 羽織って隠し、好きな部分を活かす
・袖が長い → まくる
気になるところが見つかっても、たいていは着こなしと手持ちの服で解決できます。原因さえ分かってしまえば、打つ手はいくつもあるんです。
✍️ いちとより
販売員をしていて残念だったのは、試着室の中で自己完結して、「似合わなかったです」と出てこられたときでした。接客されるのが苦手な方が多いのは、本当によく分かります。それでも、せめて一言お伝えできていれば、その方の見え方は変わったのに、と思うことが何度もありました。
分かったうえで選ぶなら、それは「好み」です
ここは、はっきりお伝えしておきたいところです。
分かったうえでサイズを上げる・下げるのは、まったく問題ありません。ゆったり着たいからワンサイズ上、体に沿わせたいからジャスト。それは好みの話であって、それが選んだ方の正解です。
私が「もったいない」と思っているのは、そこではないんです。分からずに着ていて、「なんか変」としか思えない状態のまま終わってしまうこと。それだけです。
お店にいたころ、ジャケットのファスナーが下4分の1ほどしか上がらないのに、色違いも一緒に即決されたお客様がいらっしゃいました。サイズだけを見れば合っていません。でもご本人は分かったうえで、それでもその着方が好きだから選ばれた。あれはあれで、いい買い物だったと今でも思っています。
「好き」は、ときにサイズを超えます。大事なのは、分かって選んだのか、分からないまま選んだのかという一点だけなんです。
では、試着室でどこを見ればいいのか
ここまで読んで、「じゃあ具体的にどこを見ればいいの?」と思われたと思います。アイテムごとに見る場所は違うので、詳しくは別の記事にまとめてありますが、どのアイテムにも共通する3つだけ先にお伝えします。
🪞 まずはこの3つだけ
① 後ろ姿を見る|背中・ヒップまわり。自分では見えない場所こそ、人からは見えています
② 動いてみる|腕を上げる、座る。お店で立っているときと、仕事中の体は別ものです
③ 肩の位置を見る|肩の縫い目が肩先に乗っているか。ここがずれていると、他が合っていても整いません
アイテム別のチェックポイントは、こちらにまとめました。トップス・パンツ・スカート・ブラウスを一本でひととおり見られます。
→ 試着で失敗しない完全ガイド|トップス・パンツ・スカート・ブラウスのチェックポイントまとめ
「サイズが合っているかどうか」の見分け方だけを深く知りたい方は、こちらが近いです。
→ 試着のサイズ確認はどこを見る?元店員が必ず見ていた7つのポイント
また、3つめに挙げた「肩」は、体型そのものによって合いやすい服・合いにくい服が変わる場所でもあります。肩まわりで毎回つまずくと感じている方は、こちらもどうぞ。
→ いかり肩に似合う服・似合わない服|元販売員が教える華奢見せのコツ
変わるのは、その1着より「次の服の探し方」
さきほどの3人のお客様が、そのあとどうされたか。
お伝えすると、どの方も「なるほど」と納得してくださいました。そのうえで、その着方やアレンジがご自分の生活の中で本当に取り入れられるかどうかを考えて、買われる方もいれば、見送られる方もいました。そこは本当に人それぞれです。
見送るのは、悪いことではまったくありません。「羽織らないと着られないなら、私の生活には合わないな」と判断できたなら、それは基準を持って選べたということですから。
そして、ここからが一番お伝えしたいことです。
気づいてもらったあとに、あらためて別の洋服を見ていただくと、そこも考慮した探し方に変わります。そして、気に入った服を見つけられる確率が、はっきり上がっていくんです。
「背中にシワが出やすいから、少しゆとりのあるものを見てみよう」
「私は肩が合いにくいから、まず肩から見よう」
こんなふうに、その1着を買うかどうかより、次の服の探し方そのものが変わる。これが、基準を持って試着することの本当の効果だと思っています。
お店の中を回る時間が短くなって、手に取る服が変わって、失敗が減っていく。「服選びが楽になる」というのは、そういうことです。
だから、このブログを作りました
「なんでか知らないけど変だった」の正体は、たいてい説明がつきます。売り場では、それをその場でお伝えできました。でも、お店を離れてしまうと、伝える方法がなくなってしまいます。
それを知ってもらいたくて、このブログを始めました。
試着室の前から、私が実際に何を見ていたのか。もう少し具体的な場面を読んでみたい方は、こちらにお客様との3つの話を書いています。
→ 元アパレル店員が試着室で見ていたこと【買い物が変わる3つの話】
よくある質問
Q. 試着だけして買わずに出るのは、お店の人に悪いでしょうか?
販売員だったころ、私はそう思ったことは一度もありませんでした。着てみて合わないと分かったのなら、試着がきちんと役目を果たしたということですから。むしろ、合わないまま買って帰られるほうが心が痛みます。「ありがとうございます、また見にきてくださいね」で終わる、何の問題もありません。
Q. 「いつもMサイズ」で選ぶのは、よくないのでしょうか?
目安としてはとても便利です。最初に手に取る1着を決めるには十分だと思います。ただ、Mの中身はブランドやデザインごとに違いますし、肩幅・二の腕・ウエストなど、気になる場所は人によって様々です。「Mを持って入る」でかまいません。そのあと鏡の前で、体に合っているか360度確認してみてください。気になる部分があれば、再度サイズを検討するか、アレンジで対応できないか考えてみると、ご自身の「ちょうどいい」が見つけやすいと思います。
Q. 何着まで試着室に持ち込んでいいですか?
お店によりますが、一度に2〜3着前後をお持ちになる方が多かったです。入れ替えたいときはスタッフに声をかければ持ってきてもらえますし、迷っているならスタッフに聞いてみればアドバイスももらえます。着比べないと「大きい・小さい」は分からないですからね。
Q. ネット通販だと試着ができません。どうすればいいですか?
商品写真や素材の説明の中に、試着に近い情報が意外と隠れています。どこを見れば読み取れるかを別記事にまとめました。→ ネットでのお買い物に自信を。元店員がそっと教える「失敗しない」見極め方
まとめ:基準を持つと、服選びは楽になる
この記事でお伝えしたかったことを、もう一度だけ並べます。
- 試着は面倒どころか、じつは時短。合わないものをその場で外せるから、迷う時間が減る
- もっともったいないのは、試着しても気づけないこと。多くの人は「入るかどうか」しか見ていない
- 「なんか変」の正体は、たいてい説明がつく。しかも解決策は、着こなしと手持ちの服の中にあります
- 分かったうえで選ぶなら、それは好み。それがその人の正解
- 変わるのは、その1着より次の服の探し方。ここが一番大きい
次のお買い物では、1着だけでかまいません。鏡の前で、後ろを振り返ってみてください。それだけで、見えるものが変わります。
「なんか変」の理由が分かるようになると、服選びはちゃんと楽になります。このブログでお伝えしたいのは、「服って色んな可能性がある」それ一つです。

コメント